4月から働いているヤヤ(子守、実際の役割はメイドだが、我が家では響きがいいので、ヤヤと呼んでいる。ちなみにアテはお姉さん、チタは叔母さんで、アテ・キム、アテ・ビアンカなどとKIANは呼んでいる)は、とても優秀で、料理は上手で、炊事、洗濯、掃除を一人で切り盛りしている。KIANもヤヤが大好きで、いつも粛々と手際よく仕事をこなし、我が家には、なくてはならない存在となっていた。28歳、独身、名前はAudi(オーディ)といい、ジェーンと同郷の娘だ。
そのヤヤが、前の雇用主から戻ってきて欲しいと、声がかかった。8年雇われていた絆は強いものがあり、どうしても辞めさせて欲しいと申し出てきた。ジェーンを初めとして皆が留めたが決意は固かった。
Dream Playに出かけたとき、写真嫌いのヤヤは顔を両手で隠している。サイカの恒例のランチでも後姿しか写真をとらせない。
そんなある日、ヤヤが私の部屋に、あいさつにやってきた。これから、田舎に帰るというのだ。たまたま部屋にいたKIANは、ヤヤに「I know that you are going home and not coming back. Come back again, I miss you.」と、5歳とは思えないやさしい口調で話しかけた。ヤヤの顔をうかがうと、涙ぐんでいるようにも見えた。私としては、情けないことに、なにも口を挟むことができなかった。
ヤヤがいなくなって、ビアンカとキムがその役割を果たすことになり、学校と家事にてんてこ舞いの生活が始まった。そして、二日後、ジェーンが「ヤヤが戻ってくる」と私に告げた。「KIANの別れの言葉に、ヤヤは田舎に帰ってからも罪の意識で眠ることができず、我が家に戻ってくることを決意した」というのだ。
まるで、往年の名画の名台詞、「シェ-ン、カンバック」の再現のようなKIANの言葉だった。そして、2日後、ヤヤは何事も無かったように姿をあらわし、いつものように家事にいそしんでいた。その時、ちゃっかりと、1万ペソの前借と洗濯機を買って欲しいという条件もつけ、私にとっては思わぬ出費となった。一方、ビアンカは疲れたのか、風邪をひいて寝込んでしまった。ヤヤは「私のせい」とせせら笑っていた。
感心したのは、たったの5歳で、人を動かす言葉を口にしたKIANだ。説得力、これは、人の上に立つ者にとって必須の能力だ。いくら学校で成績がよくても、参謀になれてもリーダーにはなれない。物事を実行するという強い意思と、周囲の人間を巻き込んで動かすというリーダーシップを発揮するには、この説得力を持っていなければならない。
いつもじっとしていないKIANはタオルを頭と腕に巻いて戦士を気取る(左)。ご多分にもれず、スマートフォンでゲームに夢中のKIAN(右)
とりあえず、KIANはおもちゃが欲しいなどという実行に対しての意思はとてつもなく強い。そして、それを繰り返し、私もその気にさせるテクも持っている。しかし、それだけでは、単なるわがままな子供だが、今回のヤヤの事件では、KIANの底知れぬ能力の片鱗を見せつけた。
我が家、あるいは私は、KIANが、お父さんの後を継いで、将来ポリスアカデミー(国家警察幹部養成学校)を卒業して、国家警察の幹部になって欲しいと思っている。そして、さらに、全国12万人の組織である国家警察の長官になることを期待しているのだが、それは40年以上後となるので、私は、100歳を超え、この世にいられないが。
そのために、英才教育の一環として、幼稚園に通う傍ら、公文、ピアノ、そして空手を習わしているが、決して無駄な投資ではないと思っている(空手は、体力的にきついので、中断しているが)。しかし、今のところKIANのもっぱらの興味はトランスフォーマーやジェラシック・ワールドのおもちゃだが、5歳ならばそんなもんだろう。
私の部屋で漫画映画(カートン)を見るのがKIANの日課だ(左)。ジェラシック・ワールドのおもちゃを買ってもらって大事に抱え込むKIAN
ところで、最近、KIANをめぐって問題が起きている。
8月から9月にかけて、思いがけず3回も農場に行く機会を持ったKIANが農場に住みたいとだだをこねていることだ。前回も、両親と姉のキムと農場に滞在した折、マニラに戻る日になって、どうしても帰りたくないとだだをこねた。そこで、ママジェーンはダダ(私)を連れてくるためにマニラに行くのだとKIANを説得した。そのため、マニラに帰るやいなや、私に、農場に戻ろうと言う。訳のわからない私がいい加減に答えていると、「Yes or No」と問い詰めてくる。KIANにとって農場はまさにパラダイスなのだ。