メトロマニラの周辺の各県(北はブラカン、リザール、南はラグナ、カビテ、バタンガス)あるいは郊外の各市(北はケソン、バレンツエラ、マリキナ、パシッグ等、南はパラニャケ、ラスピニャス、ムンティンルパなど)の住宅地から都心部(マカティ、マニラ、ボニファシオ、オルテガスなど)へ向かう道路の、朝夕のラッシュは、まさに通勤地獄ともいえる渋滞で、毎日の往復に3~4時間を通勤に費やす人々はざらだ。
人々は、ジープ、バス、UVエクスプレス(始点と終点が決まっている中距離小型バン)、などの車を乗り継いで、家路に着くが、帰り着くころにはくたくたで、夕食を終えて、一眠りすると、もう朝の出勤が待っている。カビテ方面の玄関口のロハス・ブルバード沿いのバクラランでは、毎日、いつ来るのか、乗れるかどうかもわからないバスを待ち続ける人々の姿は、まさに悲惨だ。最近、首都圏のスコーターの撤去作業が進んでいるが、住民はカビテ県などに作られた低所得者住宅に強制的に移住させられている。これらの人々も、生活の糧を得るために、毎日、首都圏に通うわけで、渋滞に拍車をかけている。
その切り札的存在がLRTなどの鉄道だが、現状、マニラ湾沿いのLRT1、エドサ沿いのMRT(LRT1とMRTで環状線となっている)、メトロマニラを横断するLRT2の3本の高架鉄道、さらに、メトロマニラを縦断するPNR(国鉄)だけでは、もはや焼け石に水だ。最近は事故や、車両不足によるラッシュ時の超過密状況に、返ってLRT/MRTを敬遠する気配もあるくらいだ。参考ブログ「メトロマニラ高架鉄道の建設状況(その3)2009年7月27日」参照
これに対して、MRT4(ケソン方面)、NR(メトロマニラ縦断)、MRT6(パラニャケ、カビテ方面)が計画されているが、このほど、ようやく、MRT6(LRT1の南部延伸事業)の工事契約がアヤラと香港の会社の合弁会社に649億ペソで発注された。これで数年後にはバクラランを起点とするカビテ方面の通勤事情が飛躍的に改善されるものと期待される。
マニラ湾沿いのLRT1の南側の終点、バクララン駅の周辺は高架の下に衣類や靴の屋台が所狭しと並んでいる。ここは、庶民の買い物所の南の横綱で、無数の一坪ショップが軒を連ねる。カビテ方面の新線MRT6はここから始まる。
一方、メトロマニラの南に位置するもう一つのベッドタウンのラグナ県方面はPNR(国鉄)が奇跡の復活を遂げたが、車両の増強による運輸能力の増強が期待されるところだ。参考ブログ「国鉄(PNR)の復活 2010年10月25日」参照。
奇跡の復活をとげたPNR(国鉄)の駅には人が列をなしている。線路周辺のスコーター(スラム)も姿を消した。一応、鉄道としての機能を果たしているものの、車両が極端にすくなくて、SLEX(南ルソン高速道路)の地獄の渋滞を救う役割は果たしているとは言いがたい。
新聞によると、既存の高架鉄道の拡充だけでは、首都圏の交通網の改善は、望めず、地下鉄の建設が必須と、JAICAが進言したそうだ。しかし、私は、この地下鉄案に疑問がある。
メトロマニラの地盤は泥岩ともいえる、きわめて固い地層でできており、その証拠にコンドミニアムの建設などで基礎杭の工事を見かけることはない。都会のど真ん中でダイナマイトを使うわけにも行かず、こんなところで、トンネルを掘るのは、最新の技術を持ってしてもきわめて困難であろう。また、たとえ可能であってもかなりのコスト高となるだろう。
高架鉄道の乗車賃は、ジープなどとの比較から政策的に決まっており、15ペソ(35円)程度に抑えられ、政府は毎年大きな赤字を補填している。ODAなどが巨額の援助をしたとしても、その返済にこの国の経済がおかしくなってしまうだろう。街の景観を汚すかも知れないが、フィリピンではコストが比較的かからない高架鉄道が適している。
マニラ湾沿いの一番古い高架鉄道(LRT1)とエドサ沿いのMRTは北のエドサ通り沿いの東西の線が完成して、環状線をなしている。これらの車両は、ほとんど同サイズで、モノレールといった風情で、車内も狭苦しい。しかも、3両編成では、朝夕のラッシュにはすし詰め状態が発生する。
最新鋭のLRT2(メトロマニラ横断高架鉄道)の車両は、LRT1、MRTよりも大きめで、車内も大分ゆったりしている。