グラブ・タクシーとバイク・タクシーの隆盛はコロナ・パンデミックの恩恵か 2025年3月7日   Recently updated !


コロナ・パンデミックが終わってマニラに舞い戻ってからは、外出はもっぱグラブ・タクシーに頼っている。かつては運転手付きの自家用車を利用するか、あるいは自分で運転していたが、高齢者ドライバーの事故が相次ぐ中、しかもパンデミックで丸々4年間自宅に引きこもっていたせいで、もはや運転する気にもなれない。

数分から十数分で確実にやってくるグラブ・タクシー、行先も告げる必要もなく、まるで運転手付きの自家用車の気分だ。

そこで、恐る恐る使い始めたのがグラブ・タクシーだ。パンデミック前に試したものの、いつまで待っても来やしない、しかも、夕方、雨の中とあって流しのタクシーも捕まらず、最後は、キアンの手を引いて、歩いて帰って来たという苦い経験がある。しかしながら、5年以上の歳月が流れて、呼べば必ず来るという、しかも待ち時間はせいぜい長くて10分ということで、十分に実用に耐えうるまでに改善されていた。メトロマニラには一万台のグラブ・タクシーが走っているというから、さもありなんである。

繁華街に来ればタクシーは沢山走っているが、必要とするときに限って現れないのが流しのタクシーだ。やっと空のタクシーが来ても、えてして乗車拒否をされて、腹立たしいことしきりだ。

自家用車のように目的地について駐車場を探す心配もないし、料金は流しのタクシーに毛が生えた程度、値段交渉も必要もなく、ぼられる心配もない、おまけに料金は銀行からの引き落としなので、まるで、ただで乗った気分だ。さらに、道を教える必要もないし、車も新しくて、運転手のマナーも良い、さらに乗車記録が残るので、何かあったらグラブの本部に連絡すればよいので、セキュリティーも申し分ない。フィリピンのタクシーにへきへきしている外国人にとってはこの上ないことで、特に空港からのタクシーは正規の料金の10倍程度に吹っかけられることが頻発しており、不案内の外国人にとってはこの上ない仕組みだ。

10ペソ程度で乗れる庶民の味方、かつてのキング・オブ・ロードのジプニーも、もはや老骨に鞭を打つと言った感じだ。

グラブ・タクシーは車両、そして運転手について、厳しい審査があり、流しのタクシーのようなボロボロの車や、ボロボロの運転手は皆無。キアンを学校に迎えに行った帰りは、タクシー乗り場にタクシーがスタンバイしているときは、タクシーに乗ることもあるのだが、乗るのが憚れるほど汚くて、運転手の態度に腹が立つこともままあるので、迷わずグラブ・タクシーに乗ることにしている。マカティに生活している限りは、もはや、タクシーや自家用車は不要な存在だ。

地方では唯一の交通手段ともいえるトライシクルだが、マニラでは営業区域が限られており、かつマカティ市街には乗り入れを制限されているために利用価値は限られる。

フィリピンのタクシーのシステムは、1台ないし数台の車を買って、陸運局(LRT)に届けて、一日、1500ペソ程度の賃料(バウンダリー)を取ってガソリンとメンテを運転手持ちとして貸し出す方式だ。したがって、あくまでも小金持ちの小遣い稼ぎで大手タクシー会社という存在は極めてまれで、運転手のマナーなどはへったくれだ。したがって、シンガポール資本のグラブが日本のように大手タクシー会社の抵抗もなく、簡単に運営の許可を取り付けたのだろう。

中距離の交通手段のUVエクスプレス・サービスは郊外から通勤するマニラっ子の頼りだ。

タクシーは初乗り料金は40ペソのままで据え置かれ、かつて600ペソ/日だったバウンダリーは1500ペソに値上がって、さらにパンデミックの後、倍近い物価上昇のおり、かなり厳しい状況にあるものと推定される。しかも、グラブ・タクシーという強敵が現れて値上げもままならず、苦戦を強いられ、ぼったくりに精を出すという悪循環に陥っているようだ。一方、我々庶民と、自家用車と、その支払いの糧を得たグラブ・ドライバーにとっては、ウインウインのなんともうれしい状況だ。まさに、インターネット、GPSなどを駆使した配車アプリのテクノロジーの勝利と言える。

マカティの中心街を爆走する赤いヘルメットはMOVE ITというバイク・タクシーで青いヘルメットのアンカスとシェアを二分する。

この配車アプリの隆盛はタクシーにとどまらず、アンカス、ムーブイットなどのバイク・タクシーが街を席巻している。マカティの主要道路や駐車場にはバイクがあふれており、そのほとんどは、後ろに客か配達荷物を載せた商用だ。タクシーに比べて、半値程度の価格で移動できるので、一人で通学、通勤するの重宝だ。グラブ・タクシーと同様、アプリで呼べば、迎えに来てくれて目的地に下してもらえる。かつ、ジプニーで何度も乗り換えて、目的地にたどりついていたものが、一直線で行け、渋滞にも影響されず、はるかに早く到着できる。しかも夜中でも来てもらえるので安全に帰宅できる。乗車記録も残っているので、かつてジプニーの中で、脅されて物を取られるなどという事故に会う心配もない。

青ヘルは老舗のアンカス、我が家があるプライムシティのコンドには毎朝、ひっきりなしに出迎えにやってくる。

このバイクタクシーが日本で認可される可能性は、安全性の観点から、まずないと思うが、フィリピンにおいては庶民の味方として大いに歓迎されており、フィリピン名物、キング・オブ・ロード、渋滞の元凶と呼ばれていた、ジプニーを脇に追いやる勢いだ。おまけに職にあぶれる膨大な若者に職を与え、バイクメーカーもこの世の春を謳歌しているだろう。これもまた、最新テクノロージーの勝利といえる。一方、既存の庶民の足、ジプニーやトライシクルが苦境に立たされているが、時代の変遷でいたしかたないものと思う。

パソンタモ通り沿いにはMOVE ITの宣伝の看板が並び、その下をMOVE ITの赤ヘルが通過する。

因みにジプニーは路線が決められており、このジプニーがどこを通るのか熟知していないと目的地にたどりつけない。唯一の利点は路線上であればどこでも停めて乗ったり下りたりできることだが、その路線図がないので、外国人が乗りこなすことは不可能だ。おまけにBGC(ボニファシオ・グローバル・シティ)には乗り入れが禁止されており、自家用車を持たない庶民は決められたジプニー・ステーションから歩いて行くしかない。

マカティの主要道路のブエンディア通りとパスタモ通りの交差点には、信号が変わるごとに多数のバイクが、かつての王者、ジプニーを取り囲む。これらのバイクのほとんどは、人あるいは配達荷物を積んだ商用だ。

一方、トライシクルで行ける範囲はそのバランガイ付近に限定されており、マカティの中心街ないしメインの通りに乗り入れることが出来ないという不便さがある。もちろんBGCに乗り入れることなどはありえない。したがって、奥様の買い物、子供の通学程度に使える程度だ。ただし、地方においてはこのジプニーとトライシクル並びにペディキャブ(3輪車)のみがが唯一の交通手段でありグラブが進出するのは先の話になるだろう。

マカティの中心街のバレロ通りの駐車場はいつの間にか、車ではなくて、バイクで占められるようになっていた。

マニラ周辺の、中・長距離の移動ないし通勤には路線バスないしUVサービス(小型バン)が主要な交通手段であり、マニラ近郊のラグナ、バタンガス、カビテ、ブラカンなどからはバスでマニラ郊外のステーションまで来て、そこからの交通手段がグラブ等の活躍の場となる。したがって現状の渋滞地獄の解消には必ずしも寄与していないが、将来、地下鉄の開通や高架鉄道の延伸が実現したら、グラブタクシー等での移動距離は最短になり、マニラの渋滞も改善に向かうことだろう。

マカティスクエアの裏手の駐車場もしかり、バイクでいっぱいで、パンデミック前には見られない光景だった。。

さらに物流にも大きな革新がおきている。フィリピンの物流の雄、LBCを脅かす存在になっているのが、香港発のララ・ムーブだ。書類、あるいは小荷物の配達をアプリで依頼すると、近場の配送員がすぐに引き取りに来てくれて、宛先に届けてもらえる。LBCのように店舗に持ち込んで、発送手続きをする必要がないので、簡便で、店舗がないから、大きな固定費もかからず、それだけ、配送員の実入りになる。長距離の輸送については既存のサービス・ステーションに持ち込むのに利用できる。

BGC(ボニファシオ・グローバル・シティ)はジプニーやトライシクルを閉めだしているので、すっきりしており、歩行者が目立つ。

パンデミック中は、外出もできないので、PRAに書類を届けたりするのにグラブ・エクスプレスというララ・ムーブと同様のサービスを利用したが、担当者に直接渡せるので、重宝した。さらに、昨年、重要書類をLBCで送ったところ、LBC職員がストライキを張っており、配達に一週間以上の日時を要して、ひやひやしたことがあった。ストの原因は新興のララ・ムーブの職員の方が実入りが良いので、LBC職員が給与アップの要求をしたためだそうだ。

かつての物流の雄、LBCはあちらこちらに集配所を開いているが、閑散としている。

このバイク・サービスの隆盛で業績を伸ばしたのが、バンク・オブ・マカティだ。昨年、SRRVを取得した退職者にこの銀行に口座を開けたいと申し入れがあった。こんな銀行は聞いたことがなかったので、何かの間違いではないかと思ったが、確かに存在しており、バイク購入のおりのローンを提供することで、このバイク・配車、配送サービスの隆盛のおりに急成長したらしい。元々は大手バイク販売会社のMOTORTRADEの子会社で、ルーラルバンク(地方銀行)だったものが、2015年に普通銀行に昇格して、このバイクブームで、そこそこ名が知れるようになったらしい。

パンダのマークを掲げるお店、宅配が可能な印だ。

パンデミック中は、外食をすることもかなわず、レストランは瀕死の状況に追い込まれた。それを救ったのが、この配送アプリだ。客がレストランに注文して、パンダ、グラブなどの配送サービスを利用して客に届ける、といったものだ。かつて、ピザハット、シェーキーズ、ジョルビー、マクドナルドなど配達システムを抱えているファストフードの独壇場だった配達をどこのレストランでも可能になったのだ。これは、パンデミックで家に閉じ込められていた子供たちをどんなに慰めたか計りしれない。

ヤヤが療養のため田舎に帰って、お手伝いにやってきた従姉妹のアレインとヤナの接待で近所のとんかつ屋でディナー。自分の食べたいものが食べられる外食は、子供たちにとっては、最大の喜びだ。

この配車、配送・システムの普及は、庶民の生活のリズムを変換させる大いなる革新であり、テクノロジーの発展とパンデミックが産み落とした社会変革ともいえるだろう。

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