中国経済の勃興も一段落した感があり、今、日本が目を向けているのが、東南アジアだ。いつも取り残された感じが強かったフィリピンにも熱い視線が向けられている。グロリエッタやグリーンベルトそしてモールオブエイシアなどに日本の居酒屋チェーンやラーメン・チェーンを初めとする本格的和食レストランの開店が相次いでいる。先日は安倍首相もフィリピンを訪問して、アキノ大統領などと経済協力を話し合い、親交を深めた。中国、韓国との首脳との会談が実現しない今、まさに東南アジアが日本の良きパートナーとなりつつあるようだ。
どこの国でも同じことだが、市場として成り立つためには中間層の果たす役割が大きい。中国、インドそしてブラジルなど、経済勃興の鍵は中間層の躍進だった。最近、日本人商工会議所の月報(2013年1月号)で、面白いデータが発表されていた。フィリピンの世帯収入毎の収入の分類と世帯数だ。
社会階層 世帯収入(ペソ/月)世帯数(万)と割合(%)日本物価換算収入
富裕層 15万ペソ以上 4 (0.2) 150万円以上
中間層(A) 10万~15万 18 (0.9) 100万~150万円
中間層(B) 2万~10万 380 (20.6) 20万~100万円
貧困層 1万~2万 700 (37.5) 10万~20万円
最貧層 1万ペソ未満 760 (40.7) 10万円以下
合計 1862 (99.9)
フィリピンの人口は9千万強だから、一世帯の平均人数は5人、夫婦と子供3人といったところだ。最貧層は1万ペソ(2万円)未満の収入となるが、一昔前は5千ペソと言われていた。トライシクルやパジャック(3輪自転車)の運転手、メイド、ウエイトレスなどは、せいぜいこの程度の収入だ。並みのサラリーマンやタクシードライバーなどは1万から2万ペソの貧困層だろう。働き手が一家に複数いれば、一つ上の階層に入ることができる。フィリピンではこの程度の収入でも一家が十分生きていける、あるいは生きていくしかない。
ちなみに物価差(5倍)を考慮に入れると、最貧層のの1万ペソは日本では10万円に相当する。貧困層の2万ペソは20万円の収入で、中間層の中値の10 万ペソは100万円となり、感覚的にわかりやすいと思う。ちなみに大学新卒の初任給は1万~2万ペソ(10万円~20万円)、大手企業の部課長で5 万~10万ペソ(50万~100万円)だから、まあ、うなずけるところだ。
体が大きくなって前の自転車が小さくなって、早速、新しい自転車を買ってもらってご機嫌のKIAN。欲しいものは何でも手に入る暮らしだ
この最貧層と貧困層が1460万世帯(7300万人)、78.2%を占めるが、彼らは生産活動の主体を占めるが、消費活動にはあまり参加できないだろう。せいぜいマーケットで日々の食料を買うのがやっとだろう。しかし、生活の必需品であるテレビと携帯だけはしっかりと誰もが所有している。
一方、中間層は、これだけの収入があれば、車を買ったり、日本のラーメンを家族で食べに行くこともできる。中間層が398万世帯(2000万人)といってもかなり首都圏に集中しているだろうから、マニラには大きな市場はあるはずだ。この中間層が経済の勃興とともに大きく膨らんでいくのだろう。
サイカのお子様ランチは320ペソでこれだけのボリューム、優に二人分はある。これをKIANはヤヤと二人で分けて食べる。KIANにとって週一回のサイカでの食事は喜びのひと時だ
私は良く、フィリピンのこれら3つの階層を串団子だと称していた。富裕層、中間層、貧困層がそれぞれ団子状になっていて、それぞれが大きな塊となっていて、その格差は果てしなく大きいと。一方、は日本はおむすび一個で上も下も大差ないと(最近は貧困層が大きな勢力を占めてきているようだが)。串団子のトップの富裕層が4万世帯、0.2%というのはちょっと意外だった。マカテやアラバンのビリッジの無数の豪邸はどうみても富裕層の持ち物だと思うが、たったの4万世帯にはどう見ても見えない。一方、中間層(A)があれだけの豪邸を所有するのはちょっと無理がある思う。
中間層の400万世帯(2000万人)というのは、国民の5人に一人だが、この国に、それだけの収入源があるとは考えにくい。これらの半数以上は、家族の1~数名がOFW(海外出稼ぎ)として、海外からせっせと仕送りしているのだろう。ジャパユキさんといえば、貧困のイメージが強いが、医者や看護士、エンジニアー、船乗りなど、大学を卒業して海外に職を求める人がフィリピンには大量にいる。
一説には1000万人のフィリピン人が海外で働いているというから、この人たちが毎月10万~20万円を国に残された家族に仕送りすれば、1000万世帯(5千万人)の中間層を形成できることになる。一説には2兆円を超える海外送金が毎年あるという。中間層の平均収入を10万円/月とすると、年間、120万円。仮に200万世帯が年間100万円の仕送りを受けると、丁度2兆円となる。従って、現状の中間層の半分はOFW頼りと推定できる。
新しいユニフォームを着てご機嫌のKIAN。しかし、最近KIANの登校拒否が続く。毎日毎日ABCの勉強ばかりで、面白くない、もっと遊べる学校に行きたいと主張する
典型的な中間層である我が家があるMakati Prime City コンドミニアムの住人は、ほとんどの住民が中間層だ。皆、車を保有しているが、車の値段は日本と一緒なので、物価差を考えると、一千万円を超える買い物だ。大体、マカティ、マニラそしてケソンのコンドミニアムに住む連中は中間層といっていいだろう。彼らは、車を保有し、週末にはレストランで食事をするという、日本の一般家庭並みの生活を楽しんでいる。そして皆、教養人だから、子供の教育には力を入れて、さらにワンランク上の生活を目指す。
ちなみにフィリピンの公立校はハイスクールまで、すべて無料だが、私立幼稚園は年間2万~20万ペソと私立大学並みの学費をとる。しかし、これら中間層の家族は、皆、子供達を私立の幼稚園に通わせ、有名ハイスクール、そして一流大学を目指す。ちなみに幼稚園での公用語は英語でタガログ語の使用は原則禁止、だからKIANはすでに流暢に英語を話す。これは海外で働く、あるいは雄飛する布石でもある。
タブレット端末はKIANにとって必須だ。家にいると大半の時間はテレビとゲームで過ごす。KIANはもはや赤ちゃんではなく、すっかり子供になっている
いずれ、フィリピンも、この中間層が主体となって、50%程度を占めるようになり、著しい経済発展を遂げることだろう。そうなったら、富裕層や中間層の生活を支えるメイドやドライバーがいなくなる一方、核家族化が進んで、家族崩壊をもたらし、日本の後追いをするのではないか。そして、フィリピンの最も強みである家族の絆がなくなり、当たり前の先進国になってしまうのではないかと危惧されるところだ。