8月7日(火)および8日(水)はマニラ首都圏を中心に豪雨に見舞われ、道路のほとんどが冠水し首都機能が麻痺した。所によっては水位が腰まで達して、車の通行を不可能としたが、当方にとっては雨季恒例の道路冠水のちょっと程度の激しいものといった感じで、家に閉じこもっていさえすれば、生活になんら支障を来たすものではなかった。
しかし、この日はビザの取り消し手続きのため、バギオから6時間のみちのりをやってきた客がいた。9時に事務所で会って、早速PRAに向かったが、この日、学校と役所はすべて閉鎖され、PRAの事務所も固く閉ざされたままだった。たかがこんな雨でさっさと事務所を閉めてしまうなんて、全くけしからんとぼやいて見ても始まらない。
それで、銀行の手続きだけも終わらせておこうと、お馴染みのBank of Commerceに行ったが、なんと、銀行も閉まっている。携帯で支店長に文句を言うと、中央銀行が閉まっているから、とおかしな言い訳をしていた。バギオからまた来てもらうのも心苦しいので、委任状を作成して署名してもらい、あとの手続きは当方が代行することにして、昼食後バギオへ戻ることになった。
しかし、そうはどっこい、バスターミナルへ行ってみると、NLEX(北ルソン高速道路)が閉鎖され、北へ向かうバスは全部運休となっていたのだ。 仕方無しに、切符を明日の便に変更して、ホテルへ向かった。
そうこうしているうちに雨は激しさを増し、マカティスクエア近辺は歩道まで水が来ている。道のど真ん中で立ち往生したタクシーを放棄している人もいた。
なんとか、ホテルに送って我が家に戻るころには、すでに道路から車が絶えていた。マカティスクエア近辺は水が出やすいことで有名だが、車道と歩道が区別できず、一帯は湖のようになっている。
水しぶきを上げて走っているのはトラックとジープニーだけで、こんな時でも交通手段として役に立つのがジープニーでまさに庶民の足だ。さらに、こんな時活躍するのがサイドカーをつけた自転車、パジャックだ。エンジンなどという文明の利器は使っていないから水に浸かっても屁のカッパだ。
あとは歩くしかないが、マンホールの穴でも開いていたら、下水に飲み込まれて溺死する危険もあるので命がけだ。
現在、ビザの発行を待っているご一家は、この日勇敢にも、お子さんの入学に必要な出生証明をとりに日本大使館に出かけていった。午前中は良かったものの、パソンタモ沿いのウォルターマートでゆっくり買い物をしている間に、パソンタモ周辺は水に沈んだ。タクシーも走っていない。そこでこのパジャックを使って、当社のゲストハウスのあるプライムシティに決死の覚悟で向かったそうだ。
パジャックは、歩道など道なき道を進んでようやくゲストハウスにたどり着いたそうだが、とんだ冒険にお子さんは大喜びだったそうだ。ゲストハウスの近くの道端では子供や若人が天然のシャワーを楽しんでいた。
天気予報では、翌日から快方に向かい、明後日木曜には晴れ間も出るとのことだった。水曜に日本からマニラにビザ申請のために向かう予定のご家族は、日本で、この洪水のニュースを聞いて、マニラ行きを躊躇した。せっかくここまで準備して、それではなんとも口惜しい。しかし、マニラの洪水も翌日(水曜)には回復するだろうということで、予定通りマニラ行きを実行するようアドバイスした。
水曜日、午前中大分水は引いて、PRAや銀行も開いていて、件のバギオの客は無事に手続きを終えた。しかし、マカティ周辺の冠水は継続しており、この日、スービックに日帰り旅行をする予定だったご夫婦の泊まっているホテルに私がアレンジした車が近づけないとの連絡が入った。雨は上がっていたので、しばらく待てば大丈夫との判断で客にはホテルでスタンバイをしてもらうこととした。
日本からのご一家を空港で出迎えて、当事務所、銀行と回って申請書類を完成して、4時ごろPRAに到着すると、様子がおかしい。29階に行ってみると、早々と事務所を閉めて人影がない。今日の申請はあきらめ、明日の朝に行うことにして、事務所経由でホテルに向かったが、こんな時だけは、役所のアクションは実にすばやい。全員、やりかけの仕事を残して何の躊躇もなく職場を放棄してしまうのだ。
ご一家はパソンタモのマカティスクエアの近く、フランチャイズワンにホテルを取ってあったが、午後になって再び激しさを増した雨による増水で近づけそうにない。しかし、途中にある当社のゲストハウス(オリエンタルガーデン)がたまたま空いていたので、急遽、そこに泊まってもらうこととして、事なきを得た。
夕方なのにあたりは薄暗くて、いかにも怪しげな天気だが、子供達はそこいら中にできたプールにおおはしゃぎだ。
オリエンタルガーデンの前も歩道まで水に浸かり、道路を走るのはパジェックだけだ。あたりはすでに薄暗い。
ところが、この日はこれで終わりではなかった。夜の9時ごろ、スービックへ出かけたご夫婦がホテルに戻れず、道路上でスタンバイの状況になっているとの連絡が入った。助けに行くにしても、所詮車で行くのだから、ミイラ取りがミイラになってしまうのは目に見えている。ドライバーになんとか事務所まで来てもらうように頼んで、我が家に寝床の準備をした。
しかし、その後、ご夫婦はなんとかパジャックでホテルにたどり着いたという情報を受け取った。翌日E-メールで、約400メートルの道のりを決死の覚悟でパジャックでホテルにたどりついた様子を連絡してきた。はじめて訪問したフィリピンでとんだ体験をしていただいた。しかし、このときも頼りの綱は普段見向きもしないパジャックだったのだ。
こんな時、テレビの番組で放映された「BAWAL SWEET、仲良し厳禁」という言葉をKIANが連発した。ママとパパが肩を抱き合ったり、キムとイア(姉と従妹)が抱き合ったりすると、KIANが「BAWAL SWEET」と注意する。雨で出かけられないので家の中で夫婦が仲良くしていると、子供がたくさんできて困るという、風刺だ。