先日、PRAのノエル営業部長(女性)と部下のマービン課長(男性)が、ロングステイフェアに参加するために安いホテルを探していた。私は、ホテル・サンルート有明をロングステイ財団に提供してもらっていたが、そこは、コーポレートレートでツインが14000円だそうた。そのことを彼らに話したら、ツインを二人で利用するから、予算におさまるので、そこを予約したいとのことだった。
そこでびっくりしたのが、PRAの職員二人、男同士あるいは女同士ならまだしも、上司と部下の男と女が一緒に泊まったりしたら、日本なら大スキャンダルになってしまう。そのことを話すと、彼らは家族のように親しいから大丈夫なのだと言う。ちょっと逆説的だが、他人の男女が同じ部屋に寝ても、親しい間柄なら、フィリピンでは特にスキャンダルでもなんでもないのだ。
KIANはベッドの脇などをシーツなどで囲って小さな部屋を作って中に入るのが大好きだ。だからテントを買って組立ててやったら、早速、中に皆を連れ込んでご機嫌だ
さらに、一昨日、キムが、今夜はKIANと一緒に私の部屋に寝ると言い出して、びっくりした。母親のジェーンも一緒だと言う。何故かと思ったが、自分たちの部屋がペンキ塗り立て中で、臭くて寝ることができない、のだと、悟った。しかし、旦那のカーネルがジャカルタに出張している間に、妻が他人の男の部屋で寝るなんて、日本だったら大スキャンダルだろう。しかし、家族のように親しい我々が、一緒に寝たところで何の問題も抵抗もないようだ。
そうでなくても、キムとKIANが、最近、私の部屋でDVDの漫画を見ながら、二人とも寝込んでしまうことに、不思議な想いを抱いていたところだ。キムといえば、花も恥らう17才のお年頃の娘が、私のベッドに一緒に寝ているのには、いささか抵抗を覚えるが、本人はなんともないようだ。私が、遠慮するようにと話をしたとしたら、何か私が下心を抱いているのではないかと、逆に疑われそうで、言い出すこともはばかれる。ちなみに私の部屋のテレビはUSBが使えるので、USBにKIANの好きな漫画映画をたくさんセーブして、それを見て楽しんでいるのだが、家族的な雰囲気があってまんざらでもないというのが本音だ。
私の部屋で漫画を楽しむキムとKIAN達。夜だとこのまま寝込んでしまうこともしばしばだ
国家警察の幹部という重責を担うジェーンの旦那、カーネルはいつも夜中未明の帰宅だ。たまには2~3日、帰ってこないこともある。そして、まる2日寝ていないと、24時間、部屋に閉じこもって寝ていることもままある。それでも、KIANはお構い無しに部屋で大騒ぎをしている。KIANがおきている限り、 KIANは活発に行動するので、カーネルも寝ているところではないはずだ。
だったら、KIANを別の部屋で寝かせれば良いではないかと、アドバイスするが、ジェーンは、とんでもないと、相手にしない。家族はいつも一緒に寝るのが当たり前で、その原則が最優先するようだ。カーネルといえば、周りでどんなにKIANが騒いでいても文句一つ言うわけはなく、しずかに目を閉じている。
タバコの農場に帰ると、ジェーンは母親や甥姪と農場のファームハウスのゲストルームの一室に寄り固まって寝る。総勢、20名程度に及ぶこともあるので、もう一部屋に分散して寝てはどうかと言っても、皆と寄り添って寝るのがうれしいのだと、耳を貸さない。家族が一緒に寝て、家族の絆を確かめ、幸せを味わっているようだ。
そもそも、フィリピンでは小さな住居に大勢で暮らしているから、家族一同が狭い部屋にごろ寝するのだと思っていたが、どうもそれだけではないようだ。私といえば、最初の子供ができたとき、夜泣きに耐えられず、別室で寝ることにした。それ以来、夫婦別室が定常化して、今に至っているが、確かに家族の絆というような思いはどこかへ置き忘れてきてしまったような気もする。
商売柄、日本から来る退職者のホテルの予約をすることが多いが、ほとんどの夫婦はツインベッドを希望する。しかし、フィリピン人の夫婦は例え、60~70になっても一つのベッドに抱き合って寝るのが普通だという。別のベッドで寝ようなどと言い出したら、それこそ離婚に発展してしまいかねない。
人類700万年、動物の時代も入れると数億年の間、家族はねぐらあるいは巣で寄り固まって、一緒に寝るのが当たり前だった。お互いの体温を感じる距離で、寒さや飢えをしのぎ、そして災害や敵から身を守ってきた、それが家族というものなのだろう。ところが、核家族がもてはやされ、無縁社会などというものが定番化している現在の日本に、体温を感じあう家族というものは果たしてありうるのだろうか。