文芸春秋の取材 2010年9月1日


 8月30日と31日、「文芸春秋」に掲載予定の介護に関する特集記事のためにフィリピン取材に訪れた橘さんご夫妻の案内をした。もともと介護施設などほ とんど必要としないお国柄だから、案内すべき施設がほとんど無い。しかも日系の介護施設はすでに取材済みなので、家庭での介護を中心に案内することにし た。

 
またPRAの紹介で「Wellness Place」という施設を見学したが、これは介護施設というよりも普通の住宅に数名ずつ介護の必要なお年寄りを収容し、原則として、入居者対介護士(ある いはヘルパー)の比率を11で面倒を見ている、いわばグループホーム的施設だ。

 「アモーレの里」の立ち上げに関わり(現在未開業)、現在新規に介護施設を計画している岸田さんに面会した。岸田さんに連れて行かれたのがサンタ・ロサ の「竜馬レストラン」だ。流行の坂本竜馬の名をとったのだろうが、和洋折衷のインテリア、同じく和洋折衷の衣装を着けた大勢のウエイトレスなど、なんとも 形容のしがたい、ユニークなレストランだった。

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岸田さんと別れて次に向ったのが、パラニャケ、BFホームズのイリジウム住宅。野呂さんが経営するタウンハウス方式の住宅街で200戸以上を完売し、今、最終の2棟を売り出している。野呂さんはこれが終わったら、引退して悠々自適の生活をするといっている。ここでオーナーのお一人が脳梗塞で倒れ、意識の無 いまま住み込みの看護婦の面倒を見てもらっている。すでに1年以上この状態だというが、看護士やヘルパーは、この方を親しみをこめて「おじいさん」と呼ん で献身的な介護を続けているとのこと。いつまでこの状態が続くのかわからないが、二人の介護人を専属で雇い、自宅で面倒を見てもらうという贅沢ができるの もフィリピンならではだろう。まさに個々のお年寄り専用の介護施設が自前で実現してしまっているのだ。

CIMG1989s-1  「Wellness Place」を経営する「Hernando B. Delizo」氏(下写真左側)とはケソン・シティのSt. Luke’s(セント・ルークス)病院で面会した。介護施設の訪問にはPRA職員の二人(下の写真の右)も同行した。St. Luke’s病院は「マカティ・メディカル」、「エイシアン・ホスピタル」と並んでフィリピン有数の大病院で、医師や設備のレベルは日本の大病院を凌駕す るという(スービックのトロピカルパラダイスで働いている日本人看護士がここで働いた経験からの話していることなので信憑性が高い)。

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 「Wellness Place」は一般の住宅を借り上げ、そこに外国在住のフィリピン人の両親や外国人の面倒をみている。現状では4つの家に20人程度を収容しているが、 フィリピンでは最初の介護施設だそうだ。フィリピンではお年寄りの面倒は家庭で見るので、特殊な事情や外国人でない限り、介護施設というものは必要としない。両親を家庭の外で面倒をみるということはフィリピン人には耐え難いことであり、しかも人手が安くいくらでもアレンジできるので、施設に入れる必要も無い。だから日本のように家庭内介護の問題は皆無だ。

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日本的に考えると介護といえばすぐに介護施設という発想になってしまう。フィリピンでご両親の面倒を見てもらおうと思っても、介護施設がほとんどないの で、一体どうしたらよいのか、ということになる。しかし、フィリピンで介護施設を作っても、そもそもこの国に需要が無いので、入居者があつまらず、計画が 頓挫してしまう。だから、介護施設を計画する場合、大きな投資をせずに「Wellness Place」のように、人数に応じて一般住宅を借り上げて小規模な介護施設を幾つも経営する形にするのが得策だ。そうすれば多額の入居費を取るとか、「ア モーレの里」のように入居者が集まらないから開業できないとか、そんな問題がなくなる。フィリピンは人件費が安いので数人単位の小規模な経営でもそこそこ のコストで運営が可能なのだ。ちなみに「Wellness Place」の入居費は医療費は別途として、介護度により、住居費も含んで5万~8万ペソ(10万~15万円)だそうだ。

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  さらに「Hernando B. Delizo」氏は自分自身の住宅の一部で介護老人の面倒を見ているが、これらの仕組みは私が提唱している介護老人のホーム・ステイに通じるものだ。

 「Wellness Place」には多くの研修生が実地トレーニングを受けている。黄色い制服をつけているのがトレーニー達だ。彼らは6ヶ月~1年のトレーニングを受けて介 護士の免許をとり、カナダ、イギリス、アメリカ、イスラエルなどの海外へ向う。それらの国ではフィリピン人看護士や介護士の招へいに躍起だ。カナダでは1 年間、家庭介護に従事すると、永住権が与えられる。イギリスでは子供を呼び寄せることも出来て、しかも学費が無償だという。それに引きかえ日本の就業条件 は「日本語で介護福祉士の試験に合格すること」という、まさに時代錯誤的なものだ。一方、上記の国々は英語圏だから、言葉には全く不自由が無い。こんな状 況ではフィリピン人介護士が日本へ向うはずも無い。今年の日本への研修生の募集では定足数に達しなかったというのもうなずける。
CIMG2006s-1  そもそも介護士は高校卒業後6ヶ月程度の研修で免許が取れるので、貧しい家庭の子弟にとっても、手っ取り早い海外行きのチャンスだ。高卒程度ではメイドか 売り子、それにウエイトレスくらいしか職がないから、いわばあこがれの職業だ。それにお年寄りや赤ちゃんが大好きなフィリピン人にとっては天性の職業でも ある。フィリピン国内であれば、資格を持った介護士でも月々2万円程度で住み込みで雇えるという、まさに介護天国なのだ。

 本部ブログとは関係ないが、アンヘレスに在住の81歳のご夫婦のお家を訪問したあと、LRT高架鉄道のノースエドサ駅からモニュメント駅をつなぐ部分で、試運転中(営業中?)の電車が走っているのを目撃した。駅舎も完成し、未開通部分の開業も間近いものと期待される。着工から約2年間、ほとんど毎月工事の進捗 を見てきたが、いよいよ首都圏の環状線の全面開通の時を迎えたのだ。

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