ファイブシックとはその名の通り、5と6だが、フィリピンでは主にインド系のフィリピン人が商いにしている高利貸しのことを指す。マーケットでは、ボンバイと呼ばれるインド人がバイクに乗っ て店を回っているのをよく見かける。彼らはそれぞれの店から貸した金の返済金を回収しているのだ。彼らは一旦でもお金を貸すと20%の利子をつける。すなわち5借りたら6戻さなければならないから、5-6(Five Six)と呼ぶのだ。たとえば1000ペソ貸すと、毎日40ペソ返済し、一ヵ月後に1200ペ ソ返済することになる。きわめて高い利子だ、商売の仕入れ資金が滞ったような時、その場で審査無しの信用で貸してくれる。このような街金融はきわ めて便利な存在で、毎日の商売の利益から少しずつ返すので、さほど苦にならずに返済が可能だ。まさに、この毎日の割賦返済がこの商売が成り立っている 仕組みなのだ。
街中を走っている、トライシクルも同じような仕組みで成り立っている。サイドカー付のバイクは現金で8万ペソ程度で手に入るが、それをリースにして貸し付けるのだ。借り手はそのバイクを使って商売をして、貸し手に毎日125ペソ程度支払い、それを5年間続けるとバイクは自分のものになる。ガソリン、修理、等すべて借り手の負担だ。これを利子に計算すると年間60%、月々5%程度になる。大変高い利率だが、125ペソという金額はトライシクルを運転していると払える金額で、生活費(200~300ペソ/日)もなんとかまかなえる。生活の手段を与えられることと5年後はトライシクルのオーナーになれるということから、借りて手はいくらでもいる。
さらに街中を走っているタクシーやジープニーもほとんどがバウンダリーという支払いを行ってオーナーから車を借りて営業をしている。車の状態や、時間等で違いうが、600~800ペソ/日程度のバウンダリーを支払って、ガソリン代を負担し、それでも一日、300~500ペ ソ程度の収入になり、生活していくことができる。外資系会社の社員が海外駐在などで小銭がたまると、車一台を買って、タクシーに仕立て、人に営業させて 小使い稼ぎをしたりしている。最近はガソリン代が大幅に上がって日本と大差がなくなったのに、タクシーの初乗りはたったの30ペソ(80円)と日本の10分の一程度でやっていけるのか不思議だ。車の値段もほとんど日本と一緒なのにだ。
話をもどして、ファイブシックスはフィリピン人もやっている。しかし、一見儲かりそうでも、まずはうまくいかないのでまねしてやって見ようなどとは思わないほうがよい。一ヶ月あたり10%の利子をつけ、貸すときはその10%を前取りする。そして毎月利子分10%を支払わせ、元金はまとまった金が入ったとき払わせることとする。100万ペソの元手があると、月々10万ペソ入ることになり、こんなに利回りの良い商売は他にはないだろう。
はじめてしばらくはよくお金が回って好調なのだが、しばらくすると利子の支払いが滞ってくる人が出てくる。もちろん元金も返すはずもない。お金が一回りする3ヶ月位で10%ぐらいが不良債権と化してしまう。利子がどんどんたまっていき、返済金が何倍にもなるともうどうしようもない。担保を取ろうにも家には何もない。強く返済をせまると日本の街金融と同じになってしまい人非人呼ばわりされる。一年も過ぎると半数くらいが不良債権と化してにっちもさっちも行かなくなる。そういうことで元金くらいを何とか回収できたからもう辞めようか、ということになる。借りたまま一回も利子を払わずにチャラになった人は、きっとほくそ笑んでいることだろう。でも1000ペソのお金も返せない可愛そうな人たちなのだが。
この商売のコツは、まず日本人は決して表面に出ないこと。日本人が顔を出すと、金持ち日本人になぜ金を返さなければならないのか、私たちは貧乏なんだから恵んでくれるべきだ、といって、誰もお金を返してくれなくなる。2番 目のコツは、金のない、あるいは返済能力のない人に金は貸すな、だ。ビジネス用には金は貸しても、生活資金としては、金は貸さないことだ。それを突き 詰めていくと銀行のように、保証人だの、担保だの、となってくる。そこまではしなくても、その金が金を生んで返済ができるか、あるいは当座の資金であっ て、息子が船乗りであるとか、返済のあてがあるということを審査しなければならない。そういうわけで素人が手を簡単に出せる商売ではないのだ。
結局、ボンバイのようにファイブシックスか、トライシクルやタクシーあたりが無難なところかということになる。しかし、それはそれでお金の回収多大な手間がかかり、あまり分のいいビジネスとは思えない。