退職者が死んでしまったら(その2)2010年11月20日


昨年11月に亡くなったんの一周忌が、丁度、私が「ロングスティ&移住フェア2010」のために日本に出張している時に執り行われた。あれから1年、早いもので、しかしながらその間、相続手続きは遅々として進まず、今だ、相続が実行されていない。現在までに種々の書類はほぼ準備が出来て、いよいよ相続の支払いが可能となる日が近いのだが、その間、経験した問題点をまとめてみた。

 結論的に言うと、銀行としても、フィリピン在住の外国人が遺産を残し、相続者が外国に在住する兄弟あるいはその子供という状況を経験したことがなく、相続手続きに必要な要件をタイミングよく示すことができなかったこと、外国で作成される書類ということで、すべてがフィリピン大使館の認証が必要であることなどのため、このような長期に渡ってしまっているといえる。

 フィリピンの銀行に残された遺産を相続する手続きは大まかに言って下記となる。基本的には日本と大差がないが、遺産を残した個人が外国人で、相続人が外国に居住する外国人であるということが、書類の準備を大変難しいものにしている。

1. 遺産分割協議書(Extrajudicial Settlement)と銀行免責保証書(Quit Claim)を法定相続人全員で署名し、公証する
2.
 上記に署名したものが法定相続人であるとともに他に相続人がいないことの証明書(出生証明、婚姻証明、死亡証明等)の準備
3
.上記協議書を新聞に掲載・公告する(毎週3)
4.
 銀行残高証明に基づき税務署へ相続税を支払う
5.
 2年間の相続凍結を免除するための保証会社にボンドを積む
6.
 上記書類を銀行等に提出して遺産を引き出す

1.遺産分割協議書と銀行免責保証書の作成
 遺産分割協議書(Extrjudicial Settlement)とは相続者全員による遺産分割の合意書で、英文で作成し、公証役場で公証し、法務局、外務省認証班の認証を経て、フィリピン大使館で認証する。ちなみに東京、神奈川の場合は公証役場が法務局と外務省認証班の役割を兼ねていて、公証役場で公証したものを直接フィリピン大使館に持っていくことが出来る。これらは新聞社、税務署、保証会社、銀行に、認証された原紙を提出する必要があるので、それだけの部数を用意しなければならない。さらにフィリピン大使館で認証(Authetication)するためには、公証された協議書の写しと相続人の身分証明書(運転免許証など、写真付のもの)を翻訳して添付する必要がある。

 銀行からの引き出しについては基本的に相続人全員(今回は6名)が銀行に出向かなければならず、現実的に不可能に近いので、遺産分割協議書の中で便宜的に相続人の代表者一名が全遺産を受け取るものとした。したがって、実際の分割については別途、相続合意書を日本語で用意して、同時に相続人全員で署名捺印(実印)したものを用意した。

 免責保証書とは、銀行が守秘義務が法律で義務付けられているにも関わらず、残高証明書などの個人(故人)の情報を税務署等に開示することについて、相続人全員が合意・免責し、後日何らか訴訟の事態に至ったとき、必要に応じて裁判所で証言する、という内容だ。これは、フィリピンでは相続には相続人同士の訴訟がつき物であるという事態から銀行が保身のために要求するものだろうと推察できる。これらも遺産分割協議書と同様、公証役場で公証し、法務局、外務省認証班を経てフィリピン大使館で認証されなければならない。保証書の内容は銀行から受け取ったものに準拠するのが無難。

 今回、この免責保証書の要求が後になって出されたために、今回の出張で再度相続人全員に集まってもらい公証役場で公証すると言う面倒くさい羽目になってしまった。

2.法定相続人であることの証明
 相続人が法令で定められたあるいは遺書で指名された正当な相続人であること、さらに他に相続人がいないという証明書を用意する。妻であれば婚姻証明書、子供であれば出生証明書、兄弟であれば出生証明書、法定相続人が亡くなっていれば死亡証明書など。これらの書類は日本では戸籍謄本を用意することになるが、これを翻訳してフィリピン大使館の認証を受ける必要がある。あるいはこれらは税務署、銀行などに原紙を提出する必要があるので、その部数だけ準備しなければならない。

 今回は第一位相続人である妻も子供もおらず、相続人が兄弟あるいはその子供となったために、これらの人が法定相続人であり、かつそれ以外に相続人がいない(婚姻をしていない、子供がいない、親は死んでいるなど)ことを証明しなければならない。そのために、10通程度の戸籍謄本、かつ提出先が7箇所ににもなったため、控えも含めて、100通近い書類を準備しなければならなかった。日本でやると翻訳料、公証代や認証代やらで 100万円近くかかってしまう見通しだった。そのため、それらの書類をフィリピンで準備することとし、出生証明、死亡証明、翻訳証明など、すべて在比日本大使館で行い、10万ペソ程度の経費で済ませた。

3.新聞公告

 遺産分割協議書が準備できたら、新聞社に持ち込んで週に一回、3回連続して新聞に掲載して、協議書の内容に異議が無いか世間に問う。その上で新聞社から証明書をもらって、銀行に提出する。


4
.銀行残高証明と相続税の支払い
  以上の書類死亡証明を銀行に提出して、残高証明書を発行してもらい、それを遺産分割協議書、相続人の証明書、死亡証明と共に税務署(BIR)に提出して相続税を計算してもらう。
 
 ここで問題なのは相続税を事前に支払わなければならないことだ。銀行から遺産を引き出すためには納税証明書が必要だが、常識的には遺産を受け取ってから税金を支払うものが、フィリピンでは事前に相続税を納めなければならない。今回のように多額な遺産となると、相続税も多額になる。フィリピンには日本のよう5千万円以下の遺産は免税になるというような規則が無い。相続税を支払わなければ遺産がもらえない、遺産がもらえなければ相続税が支払えない、という鶏と卵の関係になって、にっちもさっちも行かなくなる。さらに後述する相続ボンドも絡んで遺産が引き出せない状況が容易に生じてしまう。

 これについては、遺産の引き出しに先立って、銀行からBIRに直接税金を支払ってもらうよう交渉中だが、BIRと銀行との交渉結果、なんとかなりそうな状況にある。しかし、この辺のポリシーは銀行により異なり、かなり難しい交渉が必要だ。

 BIRの税金の試算書をチェックしたが、これがいい加減で油断もすきも無い代物だった。何しろ相続税を膨らまして、それを少なくする代わりに賄賂をよこせ、という意図が見え見えだ。
共同名義の口座は最悪でもその半分が課税対象だが、全額が課税対象となっていた。
生命保険は被保険者でなくて受取人が死んだのだから、それを解約して、掛け金の7割程度しか戻ってこない。しかしに死亡保険金全額が課税対象になっていた。
時間の経過により遺産分割協議書に記載されている定期預金が満期になっていたため、残高証明には普通預金に移動されていた。しかし、BIRはその両方を合算して課税対象としていた。

 これらを考慮すると課税対象は半額になり、相続税も半分になった。しかしながら、申請がすでに故人の死亡から半年を経過しているので多額の利子とペナルティを課せられていた。

5.保証会社のボンド(Heir’s Bond)
 相続の支払いが確定してからも、2年間は支払いが凍結される。これは、他の相続人が名乗り出た場合、2年が時効となっているためで、その間相続人は支払いを待たなければならない。それを速やかに支払ってもらうためには保証会社にボンドを設定してもらわなければならない。もし、銀行が、他の相続人に支払わなければならない状況に陥ったとしたら、保証会社が肩代わりするわけだ。

 保証料として保証額の2%と見込まれたが、そのほかに保証会社は 2名の保証人を立てるように要求してきた。もし保証会社が銀行に保証する羽目になったら、この保証人は保証会社の損害を補填しなければならないというのだ。一体何のための保証会社なのか、なんのために掛け金をとるのかと腹立たしいこと限りない。さらに今回は相続人が全員海外居住の外国人ということで、さらに担保として相続資産と同額の定期預金を担保として差し入れるよう要求された。こんなことはまったく不可能なことなので、相続人には2年待つ様、納得してもらった。

 しかし、ある銀行はこの相続保証がなければ、税金の支払いもままならぬと言っている。税金の支払いを終えなければ、銀行の2年の時効カウントが始まらないので、すべては今後の交渉にかかっている。

6.遺産の引き出し
 すべての書類が整えば相続人が2通の身分証明書(パスポートと免許証など)を携えて、銀行に赴けば、預金の引き出しがかなうはずだ。しかし、本店の法務の承認など、まだまだ手間がかかりそうで、予断を許さない。

 今回の相続手続きを担当した結果、教訓としていえるのは「預金を銀行に残して死ぬな」の一言だ。もしこのように退職者が余命幾ばくもないという状況に陥ったら、周囲の身内の人は銀行から預金を引き出して現金化することを第一に心がけなければならない。そうでなければ相続手続きに途方も無い時間と努力がかかる。経費も馬鹿にならないくらいかかって、2~3百万円の遺産なら放棄してしまったほうがましなくらいだ。なお、退職者本人が病床にあって意識がなくても、銀行の職員が立ち会って指紋を取ることにより手続きを進めることが出来る。また、委任状に指紋を押してもらって手続きも進めることが出来るが、この委任状は原則、本人の死後は無効だ。 

 

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