フィリピンに暮らすとなると、銀行口座の開設は必須だ。口座の開設には基本的にパスポートとACR(外国人登録証)が必要だが、退職ビザを取得された方はPRAのIDカードがACRの代わりとなる。退職ビザ保有者は、立派に口座開設の資格があるのだが、大手銀行のBDO(Banco De Oro)あるいはBPI(Bank of the Philipipne Island)は、あの手この手を尽くして、退職者の口座を開けまいとする。その手口は以下のの通りだ。
I さんは1年ほど前に退職ビザを取得して、お子さんをインターナショナルスクールに通わせている情報通のお母さんだ。その方が、お住まいの近くのBDOの支店で口座を開こうとしたが、どうしても、うまく行かない。そこで、私が口座開設をお手伝いすることになった。土曜だったので、SMマカティの近くの支店に行った。ここだけは土曜でも開いていることを、I さ んは突き止めていた。「住まいは遠いが、私の事務所の住所で口座を開きたい」とい正直に言ったら、「住まいの近くで口座を開け」という。私の住所という事 で開きたいのだと繰り返したら、「私の会社の社員なのか、あるいは本当にそこに住んでいるのか」などと追求され、結局相手にされなかった。そこで、日を改 めて、私の馴染みのPacific Star 支店に行って、あくまでも私の住所に住んでいることにして、無事口座を開設することができた。
息子の帰還のお祝いに、大きなピザを2枚買った。この日のために農場からはマミーとビアンカ、それにヤナが駆けつけた。他に夏休みで遊びに来ている4人の従妹も含めて、総勢14人が我が家にひしめいていた
さらに、同じBDOのSMスーカット支店でM さんの口座を開設しようとした。「住まい近くのアビダ・タワー・コンドだ」 といったら、固定電話の電話番号を教えろという。「自宅にはないので、管理事務所の電話ならある」というと、「その電話番号でもよい」という。そうした ら、早速管理組合に電話を入れて、確かにM さんがそこに住んでいるか確認していた。そこでは別の事情で、結局口座は開設しなかったが、何故住所がそんなに大事なのか、BDOの住所へのこだわりは尋常ではない。山本のぶ子さんの口座をPacific Star 支店で開けるときも、私が住所を申請用紙に書いてやろうとすると、「本人が書かなければいけない」と、行員に何度も叱られた。
KIANも一丁前にテーブルに座って、お食事と思いきや、どうも遊んでいるだけらしい
事務所で仕事をしているときに、息子に電話がかかってきた。BDOからだという。3階にいると思い、大声で呼ぶと、BDOは 「別に本人がいなくても結構だ」と言い、私の名前を聞いてきた。SHIGAと答えたが、息子と同じ名前なので、息子の父と答えなおした。そうしたら、満足 したように電話が切れた。要は、銀行としては口座を開設しようとしている息子が、本当にここに住んでいるのか確かめたかったのだ。あとで息子に聞いたら、 父親と一緒に住んでいると、話したそうで、つじつまが合うので、無事合格したようだ。ちなみに息子は短期ビザの延長で滞在しているが、2回目の延長から ACRを取らなければならないから、口座開設の資格があるのだ。
X-Boxのゲームを楽しむKIAN。ことゲームについては、もはやKIANの右に出るものはいない
ビザの申請準備をしていたO さんは、私の勧めるBank of Commerceではなくて、BDOにビザ取得のための預託金の送金用口座を開設したいと希望していた。PRAから紹介状をもらって、パスポートと日本の免許証、写真を用意して、万全のはずだった。それに、おなじみのPacific Star Branchだから、問題はなかろうと、たかをくくっていた。Bank of Commerceなら、これで全く問題ないのだが、敵もさるもので、「日本の免許証では意味が判らない」と言う。かといっても英語のIDを持っているはずもない。その辺を主張すると、「日本の免許証を日本大使館に持っていって翻訳してもらって来い」という。しかし、Oさんは翌日帰国する予定で、そんな時間もない。
O さんには、BDOには長いこと送金用口座を開設したことがないので、もしかしてだめかもしれない、その場合は、Bank of Commerceに行くと言ってあったので、その場で席をたって、道路を挟んだ向かいのBank of Commerceに向かった。事の次第を店長に話すと、「BDOは馬鹿な銀行だ」と笑っていた。せっかく、2万ドルという巨額の定期預金を作ろうというのに、BDOは一体何を考えているのか見当がつかない。
今日はいつもの「堅い焼きそば」ではなくてあんかけラーメンを注文した。ちょっと変わった味に、れんげを上手に使ってスープを飲んでいるKIAN
イギリス人の旦那さんを持つ、J さんはお子さん達も含めてバイリンガル一家で、一緒に車に乗っていると英語と日本が飛び交って奇妙な感じだ。ご主人だけは英語しか話せないが二人の子供は完璧な英語と日本語を入り混ぜて話す。日本人の奥さんもほとんど完璧な英語を話す。
ビザを受け取ろうとしたら、PRAの緊急ミーティングが始まって、1時間以上待たされてしまった。ビザが取れたら口座を開きたいというので、その時、私の経験を踏まえて詳しく指南した。住所のことはもちろん、地方ではPRAのIDを見せてもだめだから、その場合、IDの裏にACRは免除されると書いてあること、それでもだめなら、本店かPRAに問い合わせろと要求すれば大丈夫などなど。
しかし、その翌日、BPIで口座をあけようとしたら、どうしてもだめだったと連絡が入り、数日して、結局ご主人がBPIに友達がいて、その力添えで、何とかなりそうとのことだった。言葉の問題はないはずだから、BPIも大手の一角であるためか、中々手ごわいようだ。
サイカは、子供におもちゃをくれるので、KIANはサイカに行くのが楽しみだ。この日は待望のガンをもらって、夢中で先端にラッパ状のゴムのついた矢を発射している
今度は、息子がBPIに挑戦した。住所もACRもOK。すでにメトロバンクやBDOにも口座を持っている。「日本に口座はあるのか」聞かれ、「新生銀行にある」と答えると、「その証明書をもってこい」と無理難題を持ち出してきた。まさに何が何でも口座を開けさせたくないと、いう姿勢だ。さすがの息子もあきらめて引きかえさざるを得なかったそうだ。
HSBCの場合は、ちょっと事情が違う。開設のための詳しい書類を云々する前に、申し込みさえ受け付けてくれないのだ。S さんはスイスフランの口座を開けようと、詳しい話を聞きにいった。私が代理で聞いていると、「本人が質問しろ」と、要求し、私の言うことを聞こうとしな い。英語をほとんど話せないSさんは、口をもぐもぐするだけだ。いかにもエリートっぽい行員は流暢な英語で、「コミュニケーションをはかることもできない で、どうやって諸々の手続きができるのか」とまくし立てる。何か、学校の先生にテストされているような雰囲気だ。そのまま、すごすごと立ち去るしかなかっ た。
母親譲りの闘争本能むき出しのKIANは空手ごっこが大好きで、どこで教わったのか、誰彼となく肘鉄砲を食らわす
一方、もっぱら私が退職者の面倒も見させていただいているBank of Commerceは何でもござれだ。「住所はまだない」というと、ほっておいても私の事務所の住所を書いてくれる。まだ退職ビザが取れないので、PRAのIDがなくても、後出しで、OK。さらにDBP(Development Bank of the Philippines)に預託金を預けているので、何らBank of Commerceと関わりがなくても、ただいまビザ申請中ということでOK。預託金の送金口座をここに開いていたら、まだビザが取れていなくても、追加の口座も、まさに二つ返事でOKだ。
Bank of Commerceの看板娘のジョイス、新規口座開設の担当なので、いつも私のお相手をしてくれるのが彼女だ
Bank of Commerceでは、すでに200人以上の定期預金口座(200人x2万ドル=400万ドル)を開いている私の顔が大 きく物をいっているだろうとは想像がつくものの、なぜ、他の銀行が、ここまで退職者/外国人の口座を開くことに消極的なのか、あるいは積極的に拒否するの か、わけがわからない。口座を開いて、預金を集めること、これが銀行ビジネスの基本ではないのか。銀行を束ねる中央銀行から「外国人に対してはマネーロン ダリングの関係で、口座開設を厳しく管理せよ」あるいは「日本の政府から、日本人の口座開設を制限するよう要請がある」などという指導もあるのだろうが、 これほどまで窓口がかたくなに口座開設を拒否したら、フィリピンの銀行業そのものの存続に関わると思う。こうなると大手銀行(BDO、BPI、メトロバンク)は、やがて凋落して、Bank on Commerce、China Bank、Security Bank、PNB、RCBCなどの準大手銀行が、大手銀行に入れ替わるときが来るだろう。
KIANの怒りのボーズ。不機嫌なときにカメラを向けると、腕を組んで難しい表情をする。今度はBDOやBPIに連れて行って、こんな顔をして怒ってもらおうと思う。ちなみにKIANは普段英語をしゃべるので、一年もしたら流暢に英語を話すようになるだろう