日本から見ればフィリピンは間違いなく男性天国と見られているだろう。日本のフィリピン・パブと同じシステムのカラオケ・パブないしクラブがマニラだけで100件はあるだろうが、そこではうら若いフィリピーナが夜な夜な日本人男性を癒している。一方、ショー・クラブやゴーゴー・クラブでは水着姿のダンサーやモデルが舞台で腰をひねらせ、客の指名を待っている。中には目を覆うような過激なショーを見せるところもある。カラオケを除くこれらのクラブは原則、連れ出しが可能だ。さらに、フィリピン庶民の遊びどころであるビア・ハウスは全国いたるところ無数にある。観光客相手には手っ取り早い置屋も健在だ。どうみてもフィリピンは男性天国のようで、それを目指して訪れる観光客も少なくない。 マカティの老舗カラオケパブとアンヘレスのゴーゴークラブ。 ところがフィリピンに長く住んでいる日本人は、「フィリピンはまさに女性天国だ」という人が大多数だ。企業の駐在員の奥様方はメイド、ドライバー、ヤヤ(子守)などにかしずかれ、会社支給の豪邸に住み、趣味やショッピングに明け暮れている。これをあこがれの「駐在員妻」と言うそうだが、そんな夢の生活を数年間過ごして日本へ帰ると、カルチャーショックで、日本の生活になじめないという。日本で奥様は、メイド、子守、秘書、ドライバー、果ては旦那のご機嫌取りのホステス役まで、全部一人でこなさなければならないのだ。 フィリピン人の場合も、お金持ちの奥様や旦那が高給取りの奥様は、まさに駐在人妻と同様あるいはそれ以上の優雅な生活をしている。それでいてさらに、妻は家庭のボス、常に旦那を尻に敷いているのだ。亭主関白という言葉のタガロク語は知らないが、旦那を尻に敷くのをフィリピンでは「アンダー・ザ・サヤ(ペチコートの中)」と表現する。レディファーストなんていうのは当たり前、しかもフィリピンにおいては女性の方がはるかに地位が高いから、男女平等というような言葉は意味をなさないのだ。 それに甘んじているフィリピン男性はどうなのだろう。フィリピン男性の優しさは我々にとっては驚愕に値するほどだ。男性は女性をあらゆる手立てで口説き落とし、さらに愛する女性に尽くして幸せにすることが無常の喜びだそうだ(最近では孕まして逃げてしまう男性も多いようだが)。ちなみにバレンタイン・デイには妻や恋人に赤いバラをプレゼントして愛の証を立てるのは男性、さらに料理は男の仕事だ(だから、ほとんどのフィリピン女性は料理ができない!)。 バレンタインには赤い花束を女性に贈る しかしフィリピンにはその日の糧にも困る人々が多数を占める。そんな時、旦那の尻をたたいて働かせ、あるいはシングルマザーとして逞しく子供を育てるのが女性だ。困難に直面して女性は実に逞しく、頼りになる。だから一家の大黒柱なのだ。会社でも幹部は女性が多い。銀行の支店長などはほとんど女性だ。カラオケやナイトクラブで働く女性も、たいてい一家を背負って立っている。18や19才の娘が病気の父親や、弟や妹の学費を稼ぐために体を売るという覚悟は並大抵のものではなかろうと頭が下がる。 こんな女性の社会進出を助けているのがメイドとヤヤの存在だ。高校(日本の中学に相当し、4年制)卒、あるいはそれさえももろくに出ていないとまともな就職口はない。そんな娘達が月々数千円~1万円で雇えるのだ。だから、共稼ぎやシングルマザーだとしても、子育てや家の仕事は全く問題ない。特に介護が必要な両親を抱えていたとしても、苦にならないのだ。 かいがいしく盛り付けをするフィリピーノ(左写真の奥)、子供にヤヤはつきものだ(右写真の右の女性)。 さて本題に入るが、こんな男女関係のフィリピン人カップルの男性が浮気したらどうなるのだろう。日本なら妻が旦那を責めて、離婚などややこしいことになる。あるいは利口な妻はことを荒立てぬよう知らぬ振りをする。フィリピン女性は、常日頃から旦那あるいは彼氏の浮気を徹底的に監視する。そして尻尾をつかんだら、ただちに浮気相手の女を攻撃するのだ。時には取っ組み合いの喧嘩までやる。男性は喧嘩の成り行きを見守るばかりだが、たいていは妻や元々の彼女が勝利する。旦那は妻に「2度と浮気はしません、愛しているのはお前だけだ」と侘びを入れて、一件落着する。しかし1週間もすれば新しい浮気相手の物色を始めるのだ。 一方、妻あるいは彼女の浮気はどうなるのだろう。もし自分の妻あるいは彼女が浮気したとしたら、男性は「糞を頭に載せている」と評され、恥ずかしくて外を歩けないほどのものなのだ。だから旦那は浮気した妻を徹底的に責める。このときだけは男性が手荒いことをすることも容認されるようだ。女性の方は、なんとふしだらな女だと社会的にも制裁を受ける。ちなみに「姦通罪」という罪も存在するが、これは女が浮気したときにだけ適用され、男の浮気には適用されないそうだ。 以上の通り、カップルの相手が浮気した場合、責められるのは常に女性なのだ。その理由は「浮気するのは男の性(サガ)、だから理性ある女性は、口説かれても拒否するのが当たり前で、妻子ある男性を愛してしまい、浮気を許したのは女性側の落ち度なのだ。」という、なんとも男性に都合のよいものだ。 果たしてフィリピンは日本人男性にとって天国なのだろうか。あるいは地獄なのだろうか。一方、女性にとっては、フィリピンはどうみても天国のような気がする。