先日、「日本を捨てた男たち」の著者でマニラ新聞の記者の水谷さんが取材協力を求めて事務所を訪問された。私がお世話した退職者でいろいろユニークな方々を紹介してほしい、というのだ。私の周りには水谷さんの著書に出てくるような困窮日本人はいないということを前置きして、最近の退職ビザを申請する方々の特徴を話した。 ① 申請者の半数近くは50歳未満の比較的若い方である。もちろん現役組だ ② 私とコンタクトをとり主体的に動いているのは奥さん(ご夫婦で申請の場合)あるいは独身ないし単身の女性。すなわち女性が半数に近く、しかも子育て真最中の方も多い ③ 申請者の半数近くは、大学教授、医者、先生、大手上場会社勤務など社会的にステータスのある、あるいはあった人である ④ 申請者の半数近くは退職ビザ取得のために初めてフィリピンを訪れた方々である。ビザの取得手続きをするために初めてフィリピンを訪問する方も多い フィリピンで永住ビザを取る人は、「日本を捨てた男たち」に登場するようなジャパ行きさんの尻を追いかけてやってきた中年ないし熟年男性、あるいは老後を物価の安いフィリピンでゆったりと過ごすご夫婦、と大方の人は思っているに違いないが、少なくとも2万ドルの預託金を積んで退職ビザを取得する方々においては、これら中・熟年男性あるいはご夫婦は少数派になってしまった。 この話に水谷さんは大いに興味を持ち、是非これらの方々を紹介してほしいということになった。記事にするかどうかは別として話を聞いてみたいというのだ。さっそく、インタビューに応じてくれそうな方々にコンタクトをとってみたが、ほとんどの方が快く依頼に応じてくれた。 何か悩みでもあるのだろうか。オー・マイ・ゴッドのポーズをとるKIAN 水谷さんとは困窮日本人の話が続いたが、日本大使館は、これらの日本人が困窮に陥ったのは、自己責任を原則とし、必要以上の手を差し伸べない、せいぜい、日本にいる家族にコンタクトを取って、帰国費用の支援を求めるだけだ。しかし、あんな息子、あんな親、あるいは、あんな兄弟には、愛想をつかしているから、勝手にしてほしい、というのがほとんどの家族の回答だそうだ。また、彼らは、例え日本に帰ったとしても生活の目処は立たず、このまま、フィリピン人の世話になるしか手は無いという。 そして、大使館の邦人保護の担当官は、女の尻を追いかけてフィリピンにやってきて、持ち金を使い果たして困窮に陥るのは、自己責任の世界で、何のゆかりもないフィリピンの人々に迷惑をかけて申し訳ないとコメントする。この「迷惑をかける」という言葉に、私は、「かちっと」来た。困り果てている人に対して、支援することが、「迷惑をかける」という感覚だ。一方、日本の家族は、例え家族だとしても、この迷惑な依頼に拒否反応を示す。そして縁もゆかりもない人々に迷惑をかけていることを意に介しない。 我々日本人は子供のころから「人に迷惑をかけてはいけない」、「他人様、世間様に迷惑をかけないで生きていくことが美徳なのだ」と教えられてきた。だから、自殺する人の遺書には「迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」とつづるのが定石だ。世間や家族への恨みやつらみよりも、世間にかける迷惑を詫びるのが先決なのだ。E-メールでも英語では「JUNK MAIL、ごみメール」が日本語では「迷惑メール」となってしまう。 お気に入りのトラックの写真を撮るKIAN。最近はカメラを構えるとすぐに自分で写真を撮ろうとする。 しかし、フィリピンの人は困った人を助けるのは決して迷惑とは思っていない。困った人を助けるのは、人間としての義務であり喜びだと思っている。それが家族だとしたら、快く、自分の三度の食事も削って喜んで支援する。家族の範囲は親や子どもはもちろん、兄弟、兄弟の配偶者、配偶者の兄弟にまで及び、その数は数十人に達することもあった、としてもだ。 […]