ある退職者の方が、自宅のリース契約に関して相談に来た。非常に信頼して、娘とまで称して、長年面倒を見てきたフィリピン人の名義で土地を買い家を建設したが、最近、ほとんど顔も見せず、疎遠になっている。このままでは、退職者が亡くなったら、日本人の奥さんは、家から放り出されてしまうのではないかと心配だと。ちなみに契約者は退職者だけで、契約書に奥さんの名前は全く現れていない。 それでは、「退職者の目の黒いうちに契約書を作り直して、将来、何が起きても奥さんも安心していられるようにしましょう」ということで、新しい契約のドラフトを作成した。それを件のフィリピン人に見せたときから、戦いが始まった。その後、彼女は結婚しており、旦那は、退職者が死ねば、あの豪邸が手に入ると目論んでいたに違いない。それが、退職者が死んだら、「リース契約は妻および子供などの相続人に引き継がれる」という契約書の文言に目論見が外れて、元も子も無くなってしまうとびっくりしたに違いない。 その後、信頼していた娘からは、脅迫まがいの言葉を浴びせられるやら不安の日々が続いた。おまけに、住宅の一部が彼女の母親の土地にかかっているから住宅の一部を取り壊せだの、さらには弟を使って国外退去の訴えを入管に起こすなど(この訴えは幸い却下された)、嫌がらせは止まらなかった。これら一連の動きは、旦那の差し金であろうということは一目瞭然だが、退職者としてはあれほどまでに可愛がってきたのにと、裏切られたという思いで一杯だった。 売られた喧嘩は買うしかない。そのため、バランガイに脅迫と詐欺の訴えを起こしたが、相手は全く顔を見せない。こうなったら、裁判に訴えるしかないので、脅迫と詐欺の刑事告訴を行い、送検されるのを待っている。しかし起訴できたらできたで、裁判という長い戦いが待っており、行く先は容易ではない。 信頼関係がある間は、仮に契約書などなくとも土地と家の名義を借りて、そこに住むということは、全く問題ない。そして、人生を全うしたら、それを、お礼としてくれてやるということは誰しも考えることだ。しかし、長期にわたると、今回の事例のように第3者が介入して人間関係が壊れるてしまうことは容易におこりうる。特に、彼女などという関係は、ほとんど間違いなく破局がおとずれるだろう。あるいは、たとえ人間関係が壊れなかったとしても、名義人が不慮の死を遂げて、見知らぬ人間に相続されてしまうかも知れない。そうなると何の恩義もない相続人は、欲の皮を突っ張らせて、退職者の追い出しにかかるだろう。 これが、正式に結婚している配偶者であれば、その所有権、離婚後の財産の処理あるいは相続などが法律で定めれており、争いの余地は少ない。しかし、それが、他人である場合、ややこしいことになる。特に、彼女名義となった場合、相手も公然と別離の代償を求めるであろう。名義借りといっても法律上、相手の所有物になっているのだから、丸ごと持っていかれるのは火を見るより明らかだ。たとえ、はじめから仕組まれたものでも、あるいは、相手に落ち度があろうが、金を出したものの権利を守るには、文書化された契約書だけが争いの武器となる。それがないと、今回の事例のように長期の裁判という、残りの人生をかけた大仕事になってしまうのだ。 以前にも紹介したが、その文書とは下記のようなものだ。名義を借りて家を建てる段は、関係は蜜月で、相手も、家をとってやろうなどという目論みは無いから、二つ返事でサインをするだろう。もし、このときサインを拒んだら、下心ありあり なのだから、別の名義人を探せばよいだけのことだ。これだけの書類にサインをしたら、名義人も我が物にしようなどという気は起こさないし、所有意識も生まれてこない。踏み絵のようなものだと思っても良い。なけなしの虎の子をはたくのだから、この程度のことを面倒くさいなどと、決してほったらかしにしてはいけない。 1. ローン契約;家と土地の購入資金の提供には、賃借契約を結んでおく。担保は購入する住宅をあてる 2. リース契約;25年+25年の長期リース契約を結び使用権を確保する。一方、賃料とローン返済を相殺する 3. オプション契約;住宅の売却、登記移転、売却金の受け取りなどの権利を確保して、実質的に保有しているという状況に近い権利を確保する 4. […]