キアンが口を開くとすぐに飛び出してくる7つの言葉がある。その1.セルフォン、その2.アイスクリーム、その3.シューマイ、その4.ジャパニーズ・フード(日本菓子)、その5.ソール・ガルビ(韓国料理)、その6.ポケモンカード、その7.サーキット(カートレーシング)だ。キアンの欲求は、この7つに集約されるのではないかという気さえする。
その1.セルフォン(携帯)については長い確執がある。3歳くらいに2,000ペソくらいの中国製タブレットを買ってやったのだが、すぐに壊してしまって、小学校に入る頃は私が使っているソニーのタブレットを借りてもっぱら使っていた。その頃は、もはや、はやらなくなっていた大き目のタブレットで、日本で中古を2万円で買い求めたものだ。私としてはあくまでもインターネットとスケジュール管理用に使っており、携帯機能としてはあくまでも古風なノキアを使っていた。
キアンがあまりにもタブレットにのめりこんでいるので、ママ・ジェーンは、私にタブレットを使わせないように懇願した。しかし、キアンは時間が空くと退屈で仕方が無いので、私にセルフォン、セルフォンと懇願する。根負けした私は2017年の末にスマート・フォンを使うことを決心をして、使い慣れたソニー製のスマート・フォンを2万ペソ程度で手に入れ、旧来のソニー・タブレットをキアンに与えて、その管理をママ・ジェーンに任せた。
しばらくすると、ソニーのタブレットが姿を消した。私はてっきりママ・ジェーンが隠したのだと思って黙っていた。そしてキアンのセルフォン合唱が始まって私とのセルフォンの取り合いが始まった。新しいのを買って与えた方が簡単なのだが、どうせママ・ジェーンが隠すから、無駄な出費になる。
そして一年近い月日が流れただろうか、ソニーのタブレットが私のベッドのサイドテーブルの下においてあるのを発見したのだ。かつてはキアンのものとなっていたソニー・タブレットは、居候していた双子のいとこと共有しており、故障してバッテリーをチャージできなくなったので、そっと返しておいたらしい。ジェーンはジェーンで無くなってしまったとも言えず黙っていたらしい。皆が私が怒るのを恐れて黙っていたのだ。
チャージャー(スマホのコネクター)を直してキアンに再度与えたが、乱暴に扱うために、毎週チャージャーを直す必要があって700ペソを出費する羽目になった。さらに電池交換、64ギガのSDメモリーの追加など大枚6000ペソをはたいて大改修をしてやった。携帯ショップは、こんなにお金をかけるのなら新品を買えばよいと、いぶかしげにしていたが、ママ・ジェーンの手前、そうもいかない。
これで解決と思いきや、携帯ショップからチャージしながら使わないようにとアドバイスされ、タブレットの電池がなくなると、私の携帯を使おうと、キアンのセルフォン合唱は相変わらず絶えることがない。
その2.アイスクリームはキアンの大好物だ。外食する都度必ず注文する。外食ない時は夕食が終わるとヤヤにアイスクリームを買いに行かせる。自分だけではなくて、周囲にも振舞おうとするので、大きな出費になるのが頭痛の種だ。
夏休み中はいつも私についてPRAや銀行(バンクオブコマース)に出かけて行ったが、近くのコンビニで1.5リッター入りの箱(260ペソ程度)で買って、職員全員に振舞うのが慣例だ。したがってキアンのあだ名は、サンタ・クロースをもじってサンタ・キアンとなっている。
問題はキアンの好みはバニラとチョコレート、それにクッキーズ・アンド・クリームに限定されるので、ヤヤが品切れで他のものを買ってくると、キアンはすぐに切れてしまい、決して手をつけないことだ。そうなると、キアンの好みを知り尽くしている 私の出番となってしまう。
その3.シウマイは学校帰りやピアノ教室に行く時は必須だ。朝飯を食べないキアンは土曜10時半過ぎにマカティ・スクエアのピアノ教室に着くと、腹がすいてたまらない。ピアノ教室が終わったら恒例のランチだからと言っても聞く耳はもたず、シウマイ屋台に直行する。4個入り(35ペソ)を2皿で70ペソ、瞬く間に平らげる。さらに学校帰りは3時過ぎになるので、ミリエンダ(おやつ)の時間で、対面のWalter Martの5階のシウマイ屋台で、やはり2皿が定番だ。このほかの場所では、セブン・イレブンのシウマイがあれば文句は無い。
その4.ジャパニーズ・フード(日本菓子)は常に机の引き出しにストックして、つまみ食いしている。したがって、マカティ・スクエアに行くと、飛び出すのがこの言葉だ。定番は天乃屋の歌舞伎揚、亀田の柿の種そして不二家のMilkyと日本でも人気商品でうまいものはやっぱりうまいのだ。価格的には円貨がそのまま概ねペソになるので日本の値段の倍程度になり、フィリピンのジャンクフードの5倍程度 、かなりの高級食品といえる。
お菓子ではないが、味付け海苔はキアンのみならずクッキーの好物でもある。かなり高価なので、ばくばく食べられると気が気ではない。キアンが食べているとクッキーが目ざとく見つけてシーィードとあどけない発音で要求する。ちなみにキアンに野菜を食べないと文句を言うと、海苔を食べていると言い返す。確かに海苔は海の野菜ではあるが、とにかく高いのが頭痛の種だ。
その5.ソール・ガルビ(韓国料理)はマカティ・アベニューに本店があるが、支店が家から歩いてもいける距離に出来て、ここのところ毎週欠かさずにお邪魔する。多い時は本店、支店あわせて週3~4回に及ぶこともある。とにかく、うまい、安い、量が多いの3拍子そろっている。3~4人で1,000ペソあれば十分で、日本の焼肉屋の半値程度、しかもキムチなどの漬物が無料で豊富に出てくるのがなんともありがたい。ここだけはキアンばかりではなくて、一同が声をそろえて歓迎する。
その6.ポケモンカードは学校帰りの門の外、あるいはマカティスクエアの何でもショップの前を通ると、買わないといられなくなる。学校の門では「今日はシウマイはいらない、お腹はすいていない」とねだる。今日はポケモンだけと言って100ペソ渡すとしばらくは、どんなカードが入っているか、楽しみで、たまに「Very Rare」と大声をはりあげる。どうもめったにないカードが入っていたようだが、所詮中国製のまがいものなのだが、本物でレアだと数万円の値がつくそうだ。そしてその後はにわかにお腹がすいてシウマイをねだる。さらにキアンのクリスマスそして誕生日のプレゼントの定番は本物のポケモンカード。たかが数十枚のカードで数千ペソもするのでたまらないが、一年先のプレゼントまで予約させられている。昨日、キアンが毎週誕生日が来るといいと訳のわからぬことを言っていたが、どうもプレゼント目当てだったようだ。
その7.サーキット(カートレーシング)は、パソンタモ通りの北のはずれにあった元競馬場で、昨年あたりに複合施設として生まれ変わったものだ。アラヤモールやコンドミニアムができてはいるものの、まだまだ人気(ひとけ)は少ない。ふと立ち寄って発見したのがカート・レーシングというところで、日本ではゴーカートと呼ばれているやつだ。はじめは恐る恐るだったキアンも何度か乗ると自信をつけて、マカティ・スクエアからの帰りは必ずこの言葉が出てくる。、しかし、一回700ペソではそうおいそれと行くわけにはいかない。したがって、私としては何かのときのご機嫌取りの隠しだまとして用意している。
その8.番外、上記の話を運転役のアランと話していると、キアンが突然後ろの席から話しに割り込んできて、”ダダ(私のあだ名)”と大きな声をあげてキアンの大好物は私だと主張したのだ。たしかにこれらの7つの大好物は、すべて私が与えるものだから、思わず私のことがキアンの胸に浮かんだのだろう。まさに私はキアンに取っては願いをかなえる女神なのだ。しっかり落としどころをわきまえているというというか、うまいタイミングで気の効いたことを言うものだ。