
パンデミックでタガイタイに疎開した当初、キアンのラップ・トップ・パソコン、台湾製のTHINK PADが熱で、頻繁に動かなくなり、しかもスタート・アップに10分ほどかかるなど、どうしようもなくなってしまった。それで仕方なく私が使っているHUAWEIのASUSのラップトップ・パソコンをオンライン授業に使わせてやった。パソコンがないと、パンデミック中のオンライン授業に参加できず、パソコンはキアンにとっては命綱だ。この、ASUSラップトップはパパ・カーネルの弟のノンさんの選択だが、中国ブランドで大丈夫かと当初心配したが、これが優れもので、すでに5年目はいった今、びくともしない。それ以来、私とキアンが一台のパソコンを共有してパンデミックを乗り切らなければならない羽目になったが、私はさほど仕事もないので、何の支障もないばかりか、いつもキアンがパソコンを使うために部屋にいてくれて退屈しのぎになるので返ってありがたかった。 パンデミックもあけて、パパ・カーネルが使い古しの同じASUSのラップ・トップ・パソコンをアップ・グレードして使えと言ってくれたのだが、パソコン・ショップに持って行ったら、このタイプのラップ・トップはアップ・グレードが出来ないことが分かった。そのため、これは、単にEメールとメッセンジャーのやりとりと文書の作成に使える程度で、キアンの好みの戦争シュミレーター・ゲーム等には使えないので、学校に持って行って使う予備のラップ・トップとすることにした。多分、私とっては十分だろうが、いまさら、ラップ・トップを交換する気にはなれない。 そして今度は、デスク・トップ・タイプの中古パソコンをくれるから、アップグレードして使えということになった。アップ・グレードに必要なCPU(演算処理装置)とGPU(画像処理装置)はパパカーネルが手配して、キアン(すなわち私)はPSU(電源装置)とクーラー(冷却装置)などマイナーな部品を手配しろというもの。価格的には私の負担が7000ペソ程度なので、OKとした。しかし、その後、CPUとGPUは合計で3万ペソ程度で高額であるためか、キアン(すなわち私)が手配しろとのお達しがきた。そうなると新品のラップ・トップを買うのと一緒になってしまうので、大いに躊躇されたが、一台のラップトップを共有しているのもいずれ限界になるので、思い切って決断した。 それで、CPUとGPUを手配すべく、マカティスクエアのパソコン部品ショップのPC‐Expressに行ってヒアリングを行ったが、件のCPUは製造元のインテル社そのものが、すでに生産が中止しており、新しいタイプのCPUにしなければならない。しかし、その場合、マザーボードも交換しなければならないとのこと。さらにケースも交換しないと収まらない、SSD(記憶装置)も必要と、総額が5万ペソを超えるだろうとのこと。そうなると逆に元のパソコンの一体何が使えるのか、これはアップグレードと呼べるのかという疑問が出てきた。ほんの一部の部品で良かったものがじわじわと増え続けて、話をするたびに、さらに増え続ける。ちょっと腹が立ち始めたものの、キアンはすっかりその気になっており、いまさら、ボツにするのも可哀そうだ。 しかし、果たして、こんな高級なパソコンを組み立てたとして、一体それを必要としているのか、今まで通り、一台のラップトップを共有していてもいいのではないかという疑問がわいてきた。そこでキアンに質問した。「なぜ、こんな高級パソコンを必要とするのか、私がコツコツためているキアンの名義の預金を使ってもいいと言うが、これはキアンの来年の授業料のための預金だ。もしも、来年の6月までに再度貯めることが出来なかったら、ドンボスコから公立学校に移らなければならない羽目になるかもしれない」とちょっと脅した。 キアンは、私の脅しにパニックになっていたが、頑なに”I want”と言うだけで、何故かは答えない。そのころ、幸い、思いがけない収入があったのと、珍しくあきらめの悪いキアンを見ていて、ここまで来てボツにしたら、あまりにキアンが可哀そうなので、OKを出した。その時のキアンの喜びようは尋常ではなかったが、さらにフライト・シュミレーターのゲームに操縦桿が必要だと言い出した。パソコンそのものではないものの、5000ペソもするものだ。そしてキアンが白状したのは、フライトシュミレーターのソフト(170ギガバイト)を入れて、遊ぶためには高級なパソコンが必要だったのだ。初めからそういえば、私は快くOKを出しただろうが、キアンとしては私にNOと言われるのが怖くて黙っていたそうだ。 キアンによると古いパソコンのRAM(演算記憶装置)だけが使えるだろうとのことだが、そうなったら、古いパソコンには手を付けないで、すべての部品を購入して、全く新規のパソコンを組み立てて、古いパソコンはクッキーかココに使わせれば良かろうとアドバイスした。RAMだけ回収して古いパソコンを使えなくするよりも、クッキーとココ用にするのであれば、今のままで十分な性能なのだし、近い将来彼らに新しいパソコンを買ってやる必要もなくなる。 次の問題は、誰が、これらの部品を調達して、組み立てるのかということだ。結論として、キアンの教育的観点から、キアンが挑戦することにした。備えとしては、PC Expressでまとめて買えば、組み立てでトラブっても相談できるし、部品同士の相性もアドバイスしてもらえるであろうという目論見だ。因みにPC Expressに組み立てを頼んだら、幾らになるか聞いたら、たったの1000ペソということなので、キアンが失敗したら、簡単にやってもらえるものとにらんだ。 正月明け、学校休みを利用して、お年玉という位置づけで部品を買い求めたが、意気揚々と帰宅したキアンは、同日、組み立てを完了して、無事に稼働させることが出来た。さらに各種ソフトのアップロードも瞬く間に終えて、本格的に使いはじめた。ただしスペースがないので、机だけが相変わらず共有だ。キアンにとって大いなる挑戦だったがパソコンを組み立てて使ったという経験は、レゴやプラモデルの組み立ての延長線上のものであろうが、社会に出るための一歩ともいえる成長だ。