マニラ新聞に載っている円対ペソの交換比率がついに1万円で5705ペソと5700を突破した。日本円を収入源とする退職者にとってはうれしい悲鳴だが、私の知っている限り、過去最高だと思う。ほんの数年前に3700ペソ代をつけた時と比べると50%以上の上昇だ。円対ドルは76円台だが、最近1万ドルあるいは2万ドルを積んで退職ビザを申請する方にとっては80万円あるいは160万円以下でビザが取れると喜んでいる。私が2002年にビザを取ったときは、5万ドルを送金するのに700万円程度かかったことを考えると、なんともありがたい話だ。
しかし、日本の輸出業界にとっては、この円高は大打撃だろう。日銀もFRBも手をこまねいているだけで、なす術もない。世界経済は、もはやコントロールできない怪物となって一人歩きしており、この先どこへ進むのか誰にも予測できない。
そうなると、今すぐフィリピンに住む予定がなくても、将来そのつもりがあるのならば、今ビザをとるか、少なくともフィリピンの銀行にドル送金してドルで持っていたほうが有利だ。さらに円が上がって65円くらいになるという話もあるが、戦後最高という円高の機会に思い切ってアクションを取ったほうがよさそうだ。
ところで、最近、この円高を機に退職ビザをとる、退職するには程遠い若い方が増えている。先日ご一緒した、その一人のKさんの主張は以下の通りだ。
① 今回の大震災は決して終わりではなく、これから起こるであろう関東大震災や東海、南海大震災の前触れに過ぎない。さらに福島の放射能は関東を汚染し始めており、これからの大震災であちらこちらの原発がやられると日本中が放射能汚染にさらされ、日本には生きて行く場所がなくなる。
②世界経済、そして日本経済は、すでに破綻の道を歩んでいたが、今回の大震災はその歩みを加速したものにすぎない。しかも、今回の大震災や原発の事故は某国の陰謀という説もある。
③今、世界経済は未曾有の混乱、恐慌をむかえようとしている。とくに日本の経済は震災を期にすでに破綻しているといっても過言ではない。ギリシャの経済破綻を新興国BRICSが支援するという時代になり、先進国というだけで安穏としていられる時代は終わった。
④日本政府はすでに震災増税を打ち出しているが、今後、国民からの収奪が常態化するであろう。第2次世界大戦の最中がそうだったように、国民は国への滅私奉公を強いられ、金(きん)などの財産も没収されることになってしまうだろう。
⑤円は極端に安くなり、1ドル1000円の時代がくるかもしれない。そうなると海外へ脱出する飛行機代も出せず、ビザ取得のための1万あるいは2万ドルのお金も一千万、二千万の大金となり、支払えなくなってしまう。
⑥一方アメリカは膨大な量の国債を不払いにすることにより、経済破綻することはなく、アメリカ国債を大量に買い込んだ日本等の金融機関が破綻するだけだ。
⑦年金で暮らす退職者が海外で受け取る年金も円安の分だけ目減りして苦しい生活になる。だから、日本経済破綻の後では、日本で貧困生活を続けるしか術がない。
⑧自分の暮らしは自分で守るしかない。特にある程度の資産を持っている場合は、それをいかに守るか真剣に考えるときが来ている。
⑨すべての資産を海外へ移し、本人も外国に居住する、それが身を守る唯一の方法だ。不動産は二束三文で売ってもいい、来年では遅すぎる、今年中にことを終えなければならない。
⑩資産として、株式も、現金も、金も、不動産も当てにならない。ここまできたら当てになるのは食料だ。あのジョージ・ソロスはすべての資産を食料につぎ込んでいる。彼らが食料をコントロールし始めたら、今度は食料危機がやってくるだろう。
Kさんは、フィリピンにやってきて日本の投資顧問の方と話をして、ただちに退職を決意し、退職ビザの準備を始めた。その決断の早さには舌を巻いたが、それだけの危機感を持っていたということだ。
そんな話を聞いていて、一体は私はその準備ができているのだろうか、と自問した。株式も金(カネ)も何もない私だが、食料を生み出す源である土地がフィリピンにある。これからの日本そして世界経済の行く末を見つめたとき、外国に土地、農地を持つことが究極のリスク回避だと悟り安堵した。いずれ家族を引き取って日夜、農作業に明け暮れる時がくるかもしれない、とひそかにほくそえんでいる。
さらにフィリピン経済はどうなのか。幸いきちがいじみた世界金融経済に汚染されず、細々とした国内経済と豊富な海外送金に支えられてきたのがフィリピン経済だ。世界的にリスク分散をしているフィリピン経済は、全世界で活躍するOFW(海外出稼ぎ労働者)の家族への忠誠心のおかげで安泰だと思う。また、家族という仕組みに支えられたフィリピン人の、貧しさに対する抵抗力は、先進諸国にはまねできないものがある。だから、来るべき世界恐慌そして食糧危機を乗り越えることができるのは、まさに、フィリピン人などの後進国の人々だと思う。